小山紀彦、勇者です!

小山紀彦です、勇者始めました。

小山紀彦、勇者です!#6

#6 「迎撃準備!その前に…」

 

 

俺の名前は小山紀彦。

サラリーマンの傍らに勇者をやっている。

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~前回までのあらすじ~

俺は仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で

全身に目を纏ったアイツと遭遇した。

なんやかんやとあって、俺はコンビニでギルドとやらに登録する事になる。

ギルド登録に登録許可証、それに魔物退治。

いよいよもって俺も勇者だな。

俺の口から洩れたそんな心の声を耳にした店員がふいに顔を上げて

俺に「違いますよ」と、声を掛けて来た。

え!?違うの!?

困惑する俺。コンビニ店員に説明を求めようとした矢先に謎の爆発。

現れたのは最初に遭ったアイツの仲間。

さあ、これからどうなる!?俺!?

 

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「またアイツだ…というかかなり怒ってる?!」

どこから出てるかわからない声を上げて、コンビニの入り口で暴れている。

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「お客さんお客さん、早速ポイントを使われますか?」

慌てる俺を余所に、店員の冷静な声。

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「ポイントって何だ!?どうすりゃいい?!」

「先程利用されたポイントです。まだ余りがあるので、先程私が使った魔物撃退用カラーボールが購入出来ます。」

さっきの魔物溶かしてしまった奴か、確かにこの場を収めるには有効かもしれない…

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「よし、ポイントを使おう!どれだけ買える?!」

「今のポイント残高ですと、5個購入可能ですね。」

「わかった、5個くれ!」

「かしこまりました。」

淡々と、弁当でも買った時の様にカラーボールが買えてしまった…

店員は普通にレジの下から魔物撃退用と書かれたカラーボールを取り出している。

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「お客様、今すぐご利用になられますよね?包装を剥がしますので、少々お待ちください。」

「早くしてくれよ?!」

どこまで慣れているのか、この店員。店の前で暴れまくっているアイツを余所に全く焦る素振りがない。もしかして謎のギルドとやらの界隈では物凄い奴なのかもしれない…

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「お待たせしました、こちら商品にになります。良く狙って投げつけてくださいね。」

「良し分かった!」

それに比べて俺はかなり焦っているし興奮状態だ。いざこうして対峙しようとすると若干緊張してきた。

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俺にもゆっくりいっぷくする位の余裕が欲しいものだ…と、思いながらアイツのもとへ向かう!

 

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小山紀彦、勇者です!#5

#5 「急転直下、大爆発」

 

 

 

俺の名前は小山紀彦。

サラリーマンの傍らに勇者をやっている。

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~前回までのあらすじ~

俺は仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で

全身に目を纏ったアイツと遭遇した。

 

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なんやかんやと揉め事が起きたが

事態を収束させたのは

コンビニ店員がヤツに投げつけた

防犯用のカラーボールだった。

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突然の出来事に呆気にとられている俺に、そのコンビニ店員はこう言った。

 

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あれ?お客様、もしかして「初めて」ですか?

 

訳アリ顔で説明されるまま「ギルド登録申請書」に必要事項を記入する俺。

ギルド登録に登録許可証、それに魔物退治。

いよいよもって俺も勇者だな。

俺の口から洩れたそんな心の声を耳にした店員がふいに顔を上げて

俺に「違いますよ」と、声を掛けて来た。

 

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え!?違うの!?

 

謎が謎を呼ぶ波乱の幕開け…

一体コンビニ店員の言うギルドとは…そして魔物の正体とは…

 

 

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「じゃあ、そもそもこのギルドって何なんだ?さっきの魔物ってやつも…」

 

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「ギルドは先程説明した通り、国から発足した会員制クラブの通称です。」

「そして魔物とは…」

 

そこまで店員が口にしたその時…

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店の入り口が大爆発!

 

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その衝撃でまたまたハンバーグ弁当をひっくり返して取り落としてしまう!

 

「俺の弁当…」

 

早速無駄になったポイントと弁当にがっつり凹まされる俺だが、

今は流石にそんな状況ではない!

 

爆発の先を見るとそこには…

 

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「ウオオオオオオオオオオ!」

 

雄たけびを上げて目を光らせるさっきの魔物の姿が!

 

 

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小山紀彦、勇者です!#4

#4「ICカードと今どきの時代。」

俺の名前は小山紀彦。

サラリーマンの傍らに勇者をやっている。

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朝から雨がしとしとと降っていたあの日。

俺は仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で

全身に目を纏ったアイツと遭遇した。

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全身に目を纏ったアイツに襲われ

なんやかんやと揉め事が起きたが

事態を収束させたのは

コンビニ店員がヤツに投げつけた

防犯用のカラーボールだった。

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尻もちをついたままの俺を立ち上がらせ

店先に転がったままの弁当の残骸を

片付けているコンビニの店員に

思いつく限りの質問を投げつけた俺に対し

店員は笑顔でこう返してきた。

 

あれ?

お客様、もしかして「初めて」ですか?

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異形なアイツと遭遇した事、

異形なアイツに襲われた事、

人の弁当を容器ごと貪り喰うヤツを見た事、

防犯用のカラーボールでアイツが消えた事、

あまりにも「初めて」が多すぎて

この店員が

何に対して「初めて」と言っているのかが

さっぱり分からない。

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困惑する俺を笑顔で眺めていた店員は

俺が何もかもが「初めて」だった事を

察知したのだろう。

 

まあとりあえず店の中へどうぞ。

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弁当の残骸を片付けていた掃除道具を

そそくさと手に持ち直すと

店員は変わらぬ笑顔で俺にそう言った。

 

店員に促されるがまま店の中に戻ると

「しばらくお待ちください」と言われ

俺はレジの前で待たされた。

 

待つ事しばし。

 

お待たせしましたと言いながら

店員がレジ奥の小部屋から戻って来た。

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お客様、たぶん初めてですよね。

こちらの書類に記載をどうぞ。

 

そう言って店員は

レジの上に1枚の紙とペンを置いた。

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これは?

 

俺が書類について尋ねると

店員はゆっくりと説明を始めてくれた。

 

どうやらこの書類は

ギルドの登録申請用の書類なんだそうで

ギルドに登録をしておく事で

先程の様な異形のヤツを倒した際に

個別でポイントが入るとの事らしい。

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そして先程の異形の姿をしたアイツは

魔物なので倒しても問題が無く

傷を負わせたからと言って

罪に問われる事も無いので安心して良い。

という様な説明も受けた。

 

ギルドに魔物、それに討伐か.....。

まるでRPGの世界だな。

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コンビニ店員は現実離れした内容の説明を

さもあたりまえの事の様に続ける。

 

話を聞いただけでは全く現実味もなければ

この店員はゲームと現実の区別が

つかないのか?と心配になる所ではあるが

その現実離れした出来事を

つい先ほど実体験として体感した俺は

割りとすんなりと

その説明を受け入れる事が出来ていた。

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俺は店員から一通りの説明を受けながら

レジ横に置かれた書類の必要事項を

黙々と記入して行った。

 

書類の全ての項目に記入を終えて

書類を店員に渡し返すと

俺から受け取ったギルド申請書を片手に

店員はレジに何かを打ち込み始めた。

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はい、これで登録完了です。

 

レジに何かを打ち込んでいた店員が

笑顔で俺にそう言った後

店員が続けざまに口を開いた。

 

お客様、何かICカード等はお持ちですか?

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ICカード?.....と、言うと?

 

疑問に思った俺が尋ねると

店員はこう答えた。

 

ICカードがギルドの登録証として

代用が出来ますので

登録をしておくと便利ですよ。

 

登録が出来るICカードは

普段お使いの交通系カードでも

いけますので大丈夫です。

 

なるほど、便利な世の中になったな。

俺はそう思いながら

普段は定期として使っている

交通系ICカードを財布から出し

これでも大丈夫なのかと

店員に見せて確認をした。

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俺の提示したICカードを確認した店員は

 

はい、大丈夫ですよ。

それではこちらにタッチをお願いします。

 

そう言ってカードリーダーに

カードをタッチする様に俺を促した。

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ピピっと言う音の後

ピンポーンと言う正解音の様な音が鳴り

正常に登録が完了された事が

店員の口から伝えられた。

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なるほど、と、ある程度の事に納得し

一通りの説明を受け終わった後

俺は先程”魔物”に貪り喰われた

ハンバーグ弁当を買い直そうと思い

商品棚から先程と同じ弁当を取り

レジに持って行った。

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店員はハンバーグ弁当をレジに通すと

俺に向かってこう言ってきた。

 

お客様、早速ポイントが使えますが

どうされますか?

 

ん? ポイント?

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小首をかしげる俺に対し

店員は言葉を続けた。

 

どうやら

ギルド初回登録時のボーナスと

ICカードの登録ボーナス、

それに加えてギルド登録時に

店員が「紹介」という形で

登録がなされたらしく

友達紹介ポイントの様な物まで

追加されていたとかなんとか。

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まるでソシャゲのポイントみたいだな。

 

そんな事を思いながら

俺はポイントを使って

ハンバーグ弁当を購入する事にした。

 

弁当の購入作業を済ませている店員を

ぼんやりと眺めながら

先程までの出来事を思い返していた俺は

いつの間にか頭の中で考えていた事が

口から洩れて声に出てしまっていた。

 

ギルド登録に登録許可証、それに魔物退治。

いよいよもって俺も勇者だな。

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俺の口から洩れた

そんな心の声を耳にした店員が

ふいに顔を上げて

俺に「違いますよ」と、声を掛けて来た。

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え!?違うの!?

 

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小山紀彦、勇者です!#3

#3「消えるアイツとカラーボール。」

俺の名前は小山紀彦。

サラリーマンの傍らに勇者もやっている。

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からしとしとと雨が降っていたあの日。

仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で

全身に目を纏った異質な”ヤツ”と出会った。

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俺はヤツに唐突に突き飛ばされてしまい

濡れたアスファルトの上に

尻もちを着かされてしまう。

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ヤツは俺が買ったばかりの弁当を

容器ごと貪り喰い始めた。

俺は抗議をしようとヤツに近づくも

暴れ始めたヤツに跳ね飛ばされて

再び尻もちを着かされた。

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俺が強い憤りを感じながら

ヤツの方に視線を送ると

ヤツは目を抑えてうずくまっていた。

 

どうやら尻もちをつかされた拍子に

手に持っていた傘が

ヤツの目を直撃してしまった様だった。

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いまのは完全に事故ではあるのだが

抑えた両手の隙間から滴り落ちる

血の様な物を見た俺は

負傷をさせてしまったと言う事実に

多少の不安感を覚えてしまう。

 

するとその時

騒動に気が付いたコンビニの店員が

店の中から颯爽と駆けつけてきた。

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店の中から駆けつけてきたコンビニ店員は

目を抑えてうずくまっているアイツと

尻もちをついたままの俺を見て

早々と事態を察知したかのように見えた。

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コンビニ店員はうずくまるアイツに対して

手に持っていた防犯用のカラーボールを

力強く投げつけた。

 

アイツの身体に当たったカラーボールは

ベシャリという音を立てて弾け

中からはカラフルな液体が飛び出した。

 

すると身体中にぶちまけられた液体が

ジュワジュワと蒸気を昇らせながら

勢いよくアイツの身体を溶かして行った。

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何がどうなったら

カラーボールで身体が溶けるのだろうか。

俺は目の前に広がる突拍子もない光景を

ただただ眺める事しか出来なかった。

 

時間にして1分にも満たないものの数秒。

気が付けばアイツの身体は全て溶け落ち

完全に姿を消していた。

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跡に残ったのは立ち上がる蒸気と

ヤツに喰われかけた

ハンバーグ弁当の残骸だった。

 

大丈夫ですか?災難でしたね。

 

アイツが完全に煙になった事を確認した

コンビニの店員は

目の前で広がる一部始終の出来事を

呆然と眺めていた俺に

そう言って手を差し伸べてきた。

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尻もちをついて濡れたズボンの感触に

気持ちの悪さを覚えながらも

俺は店員に差し伸べられた手を取り

立ち上がった。

 

未だ状況の理解と整理が追いつかない。

 

アイツに容器ごと貪り喰われかけた

ハンバーグ弁当の残骸を

さも日常であるかの如く片付け始める

コンビニ店員。

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その様子を横目に

呆然と立ち尽くしていた俺は

ハッと我に返り

頭の中に溢れ始めた疑問を

まとめて店員に投げつけた。

 

あ、あの、今のヤツは一体なんなんですか?

なんでカラーボールで人が消えるんですか?

あの人は何処に消えてしまったんですか?

あと....俺のハンバーグ弁当は.....

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最初は一気にまくしたてる俺の質問を

キョトンとした顔で聞いていた

コンビニ店員だったが

しばらくすると

何かに気が付いた様子に変わり

笑顔でこう返してきた。

 

あれ?

お客様、もしかして「初めて」ですか?

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小山紀彦、勇者です!#2

#2「濡れるズボンとコンビニ弁当。」

俺の名前は小山紀彦。

サラリーマンの傍ら勇者もやっている。

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からしとしとと雨が降っていたあの日。

残業で帰りが遅くなった俺は

遅めの晩飯にありつくため

家の近所のコンビニに立ち寄った。

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買い物を済ませて店を出ようとしたが

自動ドアが反応しない。

センサーの調子でも悪いのかと思い

ドアの前で腕を無造作に動かしてみる。

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最初は全く反応が無かったが

しばらくしてドアが開いたので

俺は開いたドアから外に出た。

 

ドアをくぐった瞬間

肌に何か違和感の様なものを感じたが

特に気にする事もなく

傘をさしてコンビニをあとにしたその時

突如としてヤツは目の前に現れた。

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身体中に目をまとったアイツは

全身が水色で頭にはピンクのモヒカン。

朝に比べて小降りになってきたとは言え

この雨の中

傘もささずにこちらを見つめている。

着ぐるみを纏った変質者か?

状況的にどう考えても

あいつの存在は普通じゃない。

 

野次馬にはなるな。

 

俺は子供の頃から母親に

そう教えられて育ってきた。

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余計な事に首をつっこんでも

面倒な事にしかならない。

とにかく関わらない様にして

ここは大人しく立ち去ろう。

 

そう思い歩き始めた俺を

水色のアイツが

身動きもせず見つめてくる。

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人と言う生き物は

どんなに気にしない様にしても

特異なものにはつい目が行ってしまう。

 

平静を装い

極力気にしない様に務めていた俺だが

目の前にあんな異質やヤツがいれば

ちらちらと見てしまうものだ。

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よく見てみると肌質がかなりリアルだな。

それに目も全て生々しい。

 

そんな事を考えながら

水色のアイツの横を

通り過ぎた時の出来事だった。

アイツの身体から微かに

グルルっと言う低い音が聞こえた。

 

次の瞬間、俺はアイツに突き飛ばされた。

その拍子に

手に持っていたエコバッグを離してしまい

俺は地面に尻もちを着いた。

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痛い!冷たい!

濡れたアスファルトの雨水が

尻もちを着いた俺のズボンに

染み込んできた。

 

ちょ、何をするんだ!?

 

俺を突き飛ばしたアイツに

抗議をしてやろうと

ヤツの方に視線をやると

ヤツの脇腹の辺りがパッカリと開いている。

そしてそこには大きな口が露出していた。

 

そしてヤツはその大きな口で

倒れた拍子に手放したエコバッグから

転がり出たハンバーグ弁当を

容器ごと貪り喰い始めたのだった。

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俺の晩飯が.....。

 

突然の出来事に尻もちを着いたまま

ヤツが弁当を貪り喰う姿を

呆然と眺めてしまっていたが

俺はハッと我に帰った。

 

おいおいおいおい。

いくら腹が減っているからって

それは無いだろう。

これじゃあ暴行罪に強盗罪だよ。

 

ひとの ものを とったら どろぼう!

 

親や学校、ゲームからも教わっただろ!

俺は無言で立ち上がり

ヤツの元まで歩みを進め

ヤツの肩に手をかけた。

 

するとヤツは

食事を邪魔されたのかと思ったのか

グオオンと唸りをあげて

バタバタと手足を振りながら暴れ始めた。

その様子はまるで子供の地団駄だ。

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ヤツが暴れた拍子に

俺はまた突き飛ばされる様な形で

濡れたアスファルト

尻もちをついてしまった。

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痛い!冷たい!

まだ乾かぬズボンに追い打ちがかかる。

 

なんて日だ!

 

二度も突き飛ばされて

尻もちをついた俺は

理不尽な暴力や濡れたズボンに

憤りを感じながら

目の前にいるヤツに視線を戻した。

 

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するとそこには両の手で目を抑え

苦しそうにうずくまる

ヤツの姿があった。

 

ヤツは身体中に目があるので

説明が少し難しいが

いま言っている「目」とは

人の目の部分に当たる箇所の目だ。

そしてよく見ると

目を抑えている両手の隙間から

血の様な物が滴っていた。


どうやらいま突き飛ばされた拍子に

俺が手に持っていた傘がヤツに当たり

目を負傷させてしまったようだ。

 

あれ.....もしかしてこれって

今度は俺が傷害罪に問われるのか?

いやいやしかし

今のは完全に事故だし

そもそも先に手を出してきたのは

ヤツなんだから

これは正当防衛に当たるのでは?

 

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血の様な物を滴らせているヤツを見て

俺の頭の中では

いつの間にか憤りは消えていて

そんな不安がグルグルとよぎっていた。

 

するとそこに

騒ぎに気が付いたコンビニの店員が

店の中から颯爽と現れたのだった。

 

 

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小山紀彦、勇者です!#1

 #1「コンビニを出たらなんかいた。」

俺の名前は小山紀彦、東京都在住。

サラリーマンと勇者をやっている。

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ちょっと何を言っているのか

分からないかもしれないが

これは事実なので致し方が無い。

他に言い様が無いのだ。

 

あの日は朝から雨が降っていた。

 

俺はいつもの様に職場をあとにした。

社会人になって早数年。

満員電車に揺られるのも既に日常だ。

電車は 遅延する事もなく

当たり前の様に最寄り駅に到着した。

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電車を降りた俺は改札から出ると

からしとしとと降る雨に

少し煩わしさを覚えながら

傘をさして自宅までの岐路に着いた。

 

駅から自宅までは

普通に歩いておよそ15分程の距離だ。

残業で夜も更け

小腹も空いていた俺は

帰り道の途中で弁当を買うため

コンビニに寄る事にした。

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家から5分程の場所にあるこのコンビニは

俺の行きつけのコンビニだ。

家のすぐ近所にコンビニがある生活は

今日みたいに残業で遅くなった日でも

楽に晩飯にありつけるので

とても助かっている、コンビニ様様だ。

 

入口で傘をたたみコンビニに入った俺は

弁当コーナーを物色する。

 

「今日はこれにするか。」 

 

そう言って手にした

ハンバーグをメインとした弁当を

レジで精算する。

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店員に温めとレジ袋を断り

鞄から取り出したエコバッグに

清算を済ませた弁当をしまう。

 

昨今はレジ袋も有料化されてしまい

小銭少額とは言え

回数を重ねればそれなりの額になるので

俺はいつでもエコバッグを

鞄に忍ばせているのだ。

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そういえば最近コンビニの前に

レンタル自転車の

乗り場が設置されたな。

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どうやって借りるんだあれ。

 

そんな事を思いつつ

最近のコンビニの進化の波に

いまいち乗り切れていない俺は

コンビニから退店するため

出入口の自動ドアの前に立った。

 

「?」

 

ドアが開かない。

ドアの前で身体を揺らしてみる。

しかしドアは開かない。

腕を軽く振ってみたが駄目だった。

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このドアはシンプルな自動ドアだ。

押しボタン式では無いし

ましてやつい今しがた

俺が入ってきたばかりのドアだ。

 

なんで開かないんだ?

急に故障でもしたか?

とりあえず店員に言ってみよう。

 

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そう思い俺はドアに背を向けて

くるりとレジの方向に振り返った。

 

レジにいる店員の元に向かい

一歩目を踏み出した瞬間

俺の背後で自動ドアが開く音がした。

 

続けざま。

扉が開くのを待っていたかの様に

コンビニ特有の

ドア開閉時に流れるメロディも

店内に鳴り響いた。

 

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なんだ、開くじゃないか。

なんだったんだ一体。

 

そう思いながらも

開いた自動ドアから

店の外に出た瞬間。

正確にはドアをくぐり抜けた瞬間だ。

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言葉にはし難いが

何か違和感の様な物を肌が感じた。

 

しかしその違和感の様な物の

正体が分からない俺は

きっと勘違いか何かだろうと思い

店先に設置された傘立てから

自分の傘を取り出した。

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少し弱くなった雨の中

コンビニを後にして

歩き始めた俺は

手にしたエコバッグを濡らさない様

身体に近づけながら顔を上げた。

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すると俺の視線の先には.....

 

「!?」

 

身体中に目をまとった

二足歩行の水色の生き物が

じっとこちらを見つめていた。

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こんな時間に傘もささずに

なんなんだあいつは。

着ぐるみか?

 

 

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