小山紀彦、勇者です!#3
#3「消えるアイツとカラーボール。」
俺の名前は小山紀彦。
サラリーマンの傍らに勇者もやっている。
朝からしとしとと雨が降っていたあの日。
仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で
全身に目を纏った異質な”ヤツ”と出会った。
俺はヤツに唐突に突き飛ばされてしまい
濡れたアスファルトの上に
尻もちを着かされてしまう。
ヤツは俺が買ったばかりの弁当を
容器ごと貪り喰い始めた。
俺は抗議をしようとヤツに近づくも
暴れ始めたヤツに跳ね飛ばされて
再び尻もちを着かされた。
俺が強い憤りを感じながら
ヤツの方に視線を送ると
ヤツは目を抑えてうずくまっていた。
どうやら尻もちをつかされた拍子に
手に持っていた傘が
ヤツの目を直撃してしまった様だった。
いまのは完全に事故ではあるのだが
抑えた両手の隙間から滴り落ちる
血の様な物を見た俺は
負傷をさせてしまったと言う事実に
多少の不安感を覚えてしまう。
するとその時
騒動に気が付いたコンビニの店員が
店の中から颯爽と駆けつけてきた。
店の中から駆けつけてきたコンビニ店員は
目を抑えてうずくまっているアイツと
尻もちをついたままの俺を見て
早々と事態を察知したかのように見えた。
コンビニ店員はうずくまるアイツに対して
手に持っていた防犯用のカラーボールを
力強く投げつけた。
アイツの身体に当たったカラーボールは
ベシャリという音を立てて弾け
中からはカラフルな液体が飛び出した。
すると身体中にぶちまけられた液体が
ジュワジュワと蒸気を昇らせながら
勢いよくアイツの身体を溶かして行った。
何がどうなったら
カラーボールで身体が溶けるのだろうか。
俺は目の前に広がる突拍子もない光景を
ただただ眺める事しか出来なかった。
時間にして1分にも満たないものの数秒。
気が付けばアイツの身体は全て溶け落ち
完全に姿を消していた。
跡に残ったのは立ち上がる蒸気と
ヤツに喰われかけた
ハンバーグ弁当の残骸だった。
大丈夫ですか?災難でしたね。
アイツが完全に煙になった事を確認した
コンビニの店員は
目の前で広がる一部始終の出来事を
呆然と眺めていた俺に
そう言って手を差し伸べてきた。
尻もちをついて濡れたズボンの感触に
気持ちの悪さを覚えながらも
俺は店員に差し伸べられた手を取り
立ち上がった。
未だ状況の理解と整理が追いつかない。
アイツに容器ごと貪り喰われかけた
ハンバーグ弁当の残骸を
さも日常であるかの如く片付け始める
コンビニ店員。
その様子を横目に
呆然と立ち尽くしていた俺は
ハッと我に返り
頭の中に溢れ始めた疑問を
まとめて店員に投げつけた。
あ、あの、今のヤツは一体なんなんですか?
なんでカラーボールで人が消えるんですか?
あの人は何処に消えてしまったんですか?
あと....俺のハンバーグ弁当は.....
最初は一気にまくしたてる俺の質問を
キョトンとした顔で聞いていた
コンビニ店員だったが
しばらくすると
何かに気が付いた様子に変わり
笑顔でこう返してきた。
あれ?
お客様、もしかして「初めて」ですか?
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