小山紀彦、勇者です!#2
#2「濡れるズボンとコンビニ弁当。」
俺の名前は小山紀彦。
サラリーマンの傍ら勇者もやっている。
朝からしとしとと雨が降っていたあの日。
残業で帰りが遅くなった俺は
遅めの晩飯にありつくため
家の近所のコンビニに立ち寄った。
買い物を済ませて店を出ようとしたが
自動ドアが反応しない。
センサーの調子でも悪いのかと思い
ドアの前で腕を無造作に動かしてみる。
最初は全く反応が無かったが
しばらくしてドアが開いたので
俺は開いたドアから外に出た。
ドアをくぐった瞬間
肌に何か違和感の様なものを感じたが
特に気にする事もなく
傘をさしてコンビニをあとにしたその時
突如としてヤツは目の前に現れた。
身体中に目をまとったアイツは
全身が水色で頭にはピンクのモヒカン。
朝に比べて小降りになってきたとは言え
この雨の中
傘もささずにこちらを見つめている。
着ぐるみを纏った変質者か?
状況的にどう考えても
あいつの存在は普通じゃない。
野次馬にはなるな。
俺は子供の頃から母親に
そう教えられて育ってきた。
余計な事に首をつっこんでも
面倒な事にしかならない。
とにかく関わらない様にして
ここは大人しく立ち去ろう。
そう思い歩き始めた俺を
水色のアイツが
身動きもせず見つめてくる。
人と言う生き物は
どんなに気にしない様にしても
特異なものにはつい目が行ってしまう。
平静を装い
極力気にしない様に務めていた俺だが
目の前にあんな異質やヤツがいれば
ちらちらと見てしまうものだ。
よく見てみると肌質がかなりリアルだな。
それに目も全て生々しい。
そんな事を考えながら
水色のアイツの横を
通り過ぎた時の出来事だった。
アイツの身体から微かに
グルルっと言う低い音が聞こえた。
次の瞬間、俺はアイツに突き飛ばされた。
その拍子に
手に持っていたエコバッグを離してしまい
俺は地面に尻もちを着いた。
痛い!冷たい!
濡れたアスファルトの雨水が
尻もちを着いた俺のズボンに
染み込んできた。
ちょ、何をするんだ!?
俺を突き飛ばしたアイツに
抗議をしてやろうと
ヤツの方に視線をやると
ヤツの脇腹の辺りがパッカリと開いている。
そしてそこには大きな口が露出していた。
そしてヤツはその大きな口で
倒れた拍子に手放したエコバッグから
転がり出たハンバーグ弁当を
容器ごと貪り喰い始めたのだった。
俺の晩飯が.....。
突然の出来事に尻もちを着いたまま
ヤツが弁当を貪り喰う姿を
呆然と眺めてしまっていたが
俺はハッと我に帰った。
おいおいおいおい。
いくら腹が減っているからって
それは無いだろう。
これじゃあ暴行罪に強盗罪だよ。
ひとの ものを とったら どろぼう!
親や学校、ゲームからも教わっただろ!
俺は無言で立ち上がり
ヤツの元まで歩みを進め
ヤツの肩に手をかけた。
するとヤツは
食事を邪魔されたのかと思ったのか
グオオンと唸りをあげて
バタバタと手足を振りながら暴れ始めた。
その様子はまるで子供の地団駄だ。
ヤツが暴れた拍子に
俺はまた突き飛ばされる様な形で
濡れたアスファルトに
尻もちをついてしまった。
痛い!冷たい!
まだ乾かぬズボンに追い打ちがかかる。
なんて日だ!
二度も突き飛ばされて
尻もちをついた俺は
理不尽な暴力や濡れたズボンに
憤りを感じながら
目の前にいるヤツに視線を戻した。
するとそこには両の手で目を抑え
苦しそうにうずくまる
ヤツの姿があった。
ヤツは身体中に目があるので
説明が少し難しいが
いま言っている「目」とは
人の目の部分に当たる箇所の目だ。
そしてよく見ると
目を抑えている両手の隙間から
血の様な物が滴っていた。
どうやらいま突き飛ばされた拍子に
俺が手に持っていた傘がヤツに当たり
目を負傷させてしまったようだ。
あれ.....もしかしてこれって
今度は俺が傷害罪に問われるのか?
いやいやしかし
今のは完全に事故だし
そもそも先に手を出してきたのは
ヤツなんだから
これは正当防衛に当たるのでは?
血の様な物を滴らせているヤツを見て
俺の頭の中では
いつの間にか憤りは消えていて
そんな不安がグルグルとよぎっていた。
するとそこに
騒ぎに気が付いたコンビニの店員が
店の中から颯爽と現れたのだった。
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