小山紀彦、勇者です!#4
#4「ICカードと今どきの時代。」
俺の名前は小山紀彦。
サラリーマンの傍らに勇者をやっている。
朝から雨がしとしとと降っていたあの日。
俺は仕事帰りに立ち寄ったコンビニの前で
全身に目を纏ったアイツと遭遇した。
全身に目を纏ったアイツに襲われ
なんやかんやと揉め事が起きたが
事態を収束させたのは
コンビニ店員がヤツに投げつけた
防犯用のカラーボールだった。
尻もちをついたままの俺を立ち上がらせ
店先に転がったままの弁当の残骸を
片付けているコンビニの店員に
思いつく限りの質問を投げつけた俺に対し
店員は笑顔でこう返してきた。
あれ?
お客様、もしかして「初めて」ですか?
異形なアイツと遭遇した事、
異形なアイツに襲われた事、
人の弁当を容器ごと貪り喰うヤツを見た事、
防犯用のカラーボールでアイツが消えた事、
あまりにも「初めて」が多すぎて
この店員が
何に対して「初めて」と言っているのかが
さっぱり分からない。
困惑する俺を笑顔で眺めていた店員は
俺が何もかもが「初めて」だった事を
察知したのだろう。
まあとりあえず店の中へどうぞ。
弁当の残骸を片付けていた掃除道具を
そそくさと手に持ち直すと
店員は変わらぬ笑顔で俺にそう言った。
店員に促されるがまま店の中に戻ると
「しばらくお待ちください」と言われ
俺はレジの前で待たされた。
待つ事しばし。
お待たせしましたと言いながら
店員がレジ奥の小部屋から戻って来た。
お客様、たぶん初めてですよね。
こちらの書類に記載をどうぞ。
そう言って店員は
レジの上に1枚の紙とペンを置いた。
これは?
俺が書類について尋ねると
店員はゆっくりと説明を始めてくれた。
どうやらこの書類は
ギルドの登録申請用の書類なんだそうで
ギルドに登録をしておく事で
先程の様な異形のヤツを倒した際に
個別でポイントが入るとの事らしい。
そして先程の異形の姿をしたアイツは
魔物なので倒しても問題が無く
傷を負わせたからと言って
罪に問われる事も無いので安心して良い。
という様な説明も受けた。
ギルドに魔物、それに討伐か.....。
まるでRPGの世界だな。
コンビニ店員は現実離れした内容の説明を
さもあたりまえの事の様に続ける。
話を聞いただけでは全く現実味もなければ
この店員はゲームと現実の区別が
つかないのか?と心配になる所ではあるが
その現実離れした出来事を
つい先ほど実体験として体感した俺は
割りとすんなりと
その説明を受け入れる事が出来ていた。
俺は店員から一通りの説明を受けながら
レジ横に置かれた書類の必要事項を
黙々と記入して行った。
書類の全ての項目に記入を終えて
書類を店員に渡し返すと
俺から受け取ったギルド申請書を片手に
店員はレジに何かを打ち込み始めた。
はい、これで登録完了です。
レジに何かを打ち込んでいた店員が
笑顔で俺にそう言った後
店員が続けざまに口を開いた。
お客様、何かICカード等はお持ちですか?
ICカード?.....と、言うと?
疑問に思った俺が尋ねると
店員はこう答えた。
ICカードがギルドの登録証として
代用が出来ますので
登録をしておくと便利ですよ。
登録が出来るICカードは
普段お使いの交通系カードでも
いけますので大丈夫です。
なるほど、便利な世の中になったな。
俺はそう思いながら
普段は定期として使っている
交通系ICカードを財布から出し
これでも大丈夫なのかと
店員に見せて確認をした。
俺の提示したICカードを確認した店員は
はい、大丈夫ですよ。
それではこちらにタッチをお願いします。
そう言ってカードリーダーに
カードをタッチする様に俺を促した。
ピピっと言う音の後
ピンポーンと言う正解音の様な音が鳴り
正常に登録が完了された事が
店員の口から伝えられた。
なるほど、と、ある程度の事に納得し
一通りの説明を受け終わった後
俺は先程”魔物”に貪り喰われた
ハンバーグ弁当を買い直そうと思い
商品棚から先程と同じ弁当を取り
レジに持って行った。
店員はハンバーグ弁当をレジに通すと
俺に向かってこう言ってきた。
お客様、早速ポイントが使えますが
どうされますか?
ん? ポイント?
小首をかしげる俺に対し
店員は言葉を続けた。
どうやら
ギルド初回登録時のボーナスと
ICカードの登録ボーナス、
それに加えてギルド登録時に
店員が「紹介」という形で
登録がなされたらしく
友達紹介ポイントの様な物まで
追加されていたとかなんとか。
まるでソシャゲのポイントみたいだな。
そんな事を思いながら
俺はポイントを使って
ハンバーグ弁当を購入する事にした。
弁当の購入作業を済ませている店員を
ぼんやりと眺めながら
先程までの出来事を思い返していた俺は
いつの間にか頭の中で考えていた事が
口から洩れて声に出てしまっていた。
ギルド登録に登録許可証、それに魔物退治。
いよいよもって俺も勇者だな。
俺の口から洩れた
そんな心の声を耳にした店員が
ふいに顔を上げて
俺に「違いますよ」と、声を掛けて来た。
え!?違うの!?
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