小山紀彦、勇者です!#1
#1「コンビニを出たらなんかいた。」
俺の名前は小山紀彦、東京都在住。
サラリーマンと勇者をやっている。
ちょっと何を言っているのか
分からないかもしれないが
これは事実なので致し方が無い。
他に言い様が無いのだ。
あの日は朝から雨が降っていた。
俺はいつもの様に職場をあとにした。
社会人になって早数年。
満員電車に揺られるのも既に日常だ。
電車は 遅延する事もなく
当たり前の様に最寄り駅に到着した。
電車を降りた俺は改札から出ると
朝からしとしとと降る雨に
少し煩わしさを覚えながら
傘をさして自宅までの岐路に着いた。
駅から自宅までは
普通に歩いておよそ15分程の距離だ。
残業で夜も更け
小腹も空いていた俺は
帰り道の途中で弁当を買うため
コンビニに寄る事にした。
家から5分程の場所にあるこのコンビニは
俺の行きつけのコンビニだ。
家のすぐ近所にコンビニがある生活は
今日みたいに残業で遅くなった日でも
楽に晩飯にありつけるので
とても助かっている、コンビニ様様だ。
入口で傘をたたみコンビニに入った俺は
弁当コーナーを物色する。
「今日はこれにするか。」
そう言って手にした
ハンバーグをメインとした弁当を
レジで精算する。
店員に温めとレジ袋を断り
鞄から取り出したエコバッグに
清算を済ませた弁当をしまう。
昨今はレジ袋も有料化されてしまい
小銭少額とは言え
回数を重ねればそれなりの額になるので
俺はいつでもエコバッグを
鞄に忍ばせているのだ。
そういえば最近コンビニの前に
レンタル自転車の
乗り場が設置されたな。
どうやって借りるんだあれ。
そんな事を思いつつ
最近のコンビニの進化の波に
いまいち乗り切れていない俺は
コンビニから退店するため
出入口の自動ドアの前に立った。
「?」
ドアが開かない。
ドアの前で身体を揺らしてみる。
しかしドアは開かない。
腕を軽く振ってみたが駄目だった。
このドアはシンプルな自動ドアだ。
押しボタン式では無いし
ましてやつい今しがた
俺が入ってきたばかりのドアだ。
なんで開かないんだ?
急に故障でもしたか?
とりあえず店員に言ってみよう。
そう思い俺はドアに背を向けて
くるりとレジの方向に振り返った。
レジにいる店員の元に向かい
一歩目を踏み出した瞬間
俺の背後で自動ドアが開く音がした。
続けざま。
扉が開くのを待っていたかの様に
コンビニ特有の
ドア開閉時に流れるメロディも
店内に鳴り響いた。
なんだ、開くじゃないか。
なんだったんだ一体。
そう思いながらも
開いた自動ドアから
店の外に出た瞬間。
正確にはドアをくぐり抜けた瞬間だ。
言葉にはし難いが
何か違和感の様な物を肌が感じた。
しかしその違和感の様な物の
正体が分からない俺は
きっと勘違いか何かだろうと思い
店先に設置された傘立てから
自分の傘を取り出した。
少し弱くなった雨の中
コンビニを後にして
歩き始めた俺は
手にしたエコバッグを濡らさない様
身体に近づけながら顔を上げた。
すると俺の視線の先には.....
「!?」
身体中に目をまとった
二足歩行の水色の生き物が
じっとこちらを見つめていた。
こんな時間に傘もささずに
なんなんだあいつは。
着ぐるみか?
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